KLIMT

新聞が賑やかなパリ万博の様子を伝えている。
ライトはそれをめくりながら、1人静かな朝食を楽しんだ。
紅茶の香りが良い。
窓の外の緑が、青い空に溶け込むようで美しかった。


ふと、この天気に似つかわしくない水音にライトは紙面をめくる指を止めた。
雨の筈はない。
立ち上がり庭に面した窓を開けると、ライトはため息をついた。


「なんでお前がいるわけ?」
窓の中から月は麦藁帽子に声をかけた。
メロは一度くるりと振り返って、ライトに一瞥くれると、無言のまま再び藤棚に向き直り水やりを続けた。
「・・・Lと一緒にパリに行けば良かったのに。」
その声は独り言にしては大きすぎて、メロの耳にも十分届いた。
「庭の木に水をやらないといけないし、猫に餌もやらないといけないからな。」
メロはじょうろを空にしてからようやく振り返った。
「へえ・・・。」


メロもパリに行ってみたかったけれど、通訳はマットのほうが適任なのは明らかだったし、そもそも自分は猫の世話をする約束でLのところに通っているのだから、その仕事をするべきだと考え直した。 学校にも行くと決めたのだから、そうしようと思った。
自分のするべき事をしようと。


「・・・・。」
ライトは黙々と庭の手入れをするメロの背中を眺めていた。
汗のせいで金髪が一筋首下にはりついている。


「・・・新聞読んだ?」
そう声をかけると、メロは先ほどとは打って変わって、すごい勢いで振り返った。
ライトは少しだけ唇の端を上げる。
じょうろがメロの手から離れ、地面に水をぶちまけた。
つんのめりそうになりながら、全速力でライトの方へ駆け寄ってきたメロは、窓枠に手を架け無理やり部屋の中へ押し入ろうとする。
上りきれずにもがいていると、ライトがしぶしぶ手を貸してくれ、中へ引き入れてくれた。
「玄関に回れよ、もう。」
不平を言うライトを押しのけて、テーブルの上の新聞をひったくり、がさがさと紙の音をさせてページをめくる。


「ああああああああ・・・・・!!!」
メロは紙面を握りしめると、胸に押し付けて床に座り込んだ。


Philosophie von L gewann den ersten Preis in Pris .
Lの「哲学」がパリ万博で金賞を受賞。


世界がLに追いついたのだ。
メロは十字架にキスをした。 


「一時休戦だ、ライト。お祝いをしよう。」
メロは涙を拭って、ライトの首に腕を回した。
「良かったね。」
頬にメロからの初めてのキスを受けながら、ライトはあくまで他人事のようにそう言った。


To be continued・・・・